「ビッグイシュー」

M)「ビッグイシュー」の販売で、自立のメドは立ちそうですか?

S)うーん。まだまだですね。
 よく、みなさん、雑誌が売れてるなら自立できるだろう、みたいに
 おっしゃるんですけど、そんなに甘くはないんですよね。
 一冊売れて、110円の儲けなんですけど、一日かけて、例えば20冊
 売れたとしても2200円の売り上げでしょ。
 ごはん食べて、銭湯行って・・ってやってると、そんなに貯金してどうの
 ってほど残らないですよ。
 50冊売れる日があっても、それが毎日続くとは限らないですしね。
 最近は、不調で、10冊売れるかどうか、くらいの日もあるんですよ。
 体調の悪い日もありますしね、先のことは分からないんですよ。
 とにかく毎日、できるだけ頑張って、どうなっていくか、やるしかない。

 
M)なるほど、そうですね。
 渋木さんの中で、いま、自立したい、という気持ちは強いですか?

S)そうですね。もちろん、自立して、アパートで暮らしたい、と思いますよ。
 でも、今はね、お金を稼ぐことに躍起になるよりも、大きな気持ちで構えて、
 奉仕の心をもって臨んでいるんですよ。
 いつまでに、とか、こうしなきゃ、とかは思わないようにしていますね。
 まだ、はじめて数ヶ月ですし、誰も1年を通じて「ビッグイシュー」を売った
 経験がないんですから。冬が一番大変かもしれない、と思うけど、
 でも、私は夏の方が大変なんじゃないか、と思ってます。
 実際のところは、やってみないと分かりませんけどね。
 とにかく、1年やってみて、見えてくることもあると思うんですよね。


M)雑誌が売れた時って、やっぱりうれしいですか?

S)そりゃあ、やっぱりうれしいですね。
 買って下さる方は、こっちに向かってくる時に、目を見ると、すごく生き生き
 されてるんですよね。すごくやさしい顔もされてるし。
 気持ちが伝わってきますよ。


M)買っていかれる方って何歳くらいの方が多いですか?


S)最近はね、若い人が多いですね。
 売り始めた当初は、中年の方なんかが多かったんですけど、
 内容的にも若い人向けな話題が最近多くなってるんですよね。
 そういうのも理由かもしれないですけどね。

M)さっきから、買って行かれる方、女性が多いですよね?
 いつもそうですか?


S)そうですねえ。いつもはそんなこともないと思うんですけど、
 今日は女性が多いですね。
 テレビや新聞なんかで、ビッグイシューの認知度が高くなるに連れて、
 色んな方が買って下さるようになったけど、
 でも、実は、最近伸び悩んでるんですよ。

M)というと?

S)最初はね、皆さん、”頑張れー”って応援してくださって、それはもう、
 飛ぶように売れる時もあったんですけど、最近では、そうでもない。
 他の人(販売員)はどうか分からないけど、自分は体調も悪かったり、
 そういうのもあって、厳しい状況です。
 きっと、通り行く方々の中には、”まだやってんの?”って思ってる方も
 いると思うんですよね。早く自立しろよ!って、だんだん厳しい目で見る
 ようになられてるんじゃないですかね。

M)販売員の方にも、変化はありますか?

S)ありますね。新宿は、まだマシみたいですけど。
 最初は、皆協力して頑張ろう、って姿勢だったんですけど、最近では、
 ライバル意識が強くて、”今日は何冊売れた?”って競っているところが
 ありますね。縄張り争いみたいなのもあるし。

M)渋木さんにも、そういうライバル心は芽生えてますか?

S)いや、一応何部売れた?とか聞きますけど、私はそうでもないですね。
 実は販売中に在庫がなくなって、在庫のある場所に取りに行ったら、
 そこにお客さんがついてきてしまって・・。
 そこで、別の販売員がいたものだから、そのお客さん、
 その販売員から7冊も買っちゃたんですよ。
 それは、さすがにあーあ、って、思いましたけどね、でもいいですよ。


M)一日、平均何冊くらい売っていきたいですか?

S)そうですね、毎日5O冊安定して売れたら、なんとかなると思います。
 でも、維持するのって本当に大変なんですよ。
 あるとき、急に売れなくなったら、アパート借りてても、またすぐ今と同じ
 状況に戻ってしまうと思うんですよね。
 なので、なんとか焦らず、マイペースにやって、がんばります。
 いつか、なんとか、今の状態から脱出できるといいんですけど。

 

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